1982年に開館したトロースドルフ絵本美術館には絵本の歴史的資料から現代作家の作品まで幅広い収集活動が行われています。
その中でも、書籍やイラストレーションなど過去200年間の様々な赤ずきんを集めた世界屈指の「赤ずきん」コレクションは「日本におけるドイツ2005-2006」の記念の際、書籍やイラストレーションなど約350点の「赤ずきん」が日本で展示されました。
詳細:トロースドルフ絵本美術館展「赤ずきん」と名作絵本の原画たち
世界中の誰もが知っているお話のひとつ、赤ずきん。
オオカミに食べられたり、猟師に助けられたり、チャリで来たり、オオカミをバスケットでどつき回したり、世界各国さまざまな赤ずきんがいます。
今回は赤ずきんにまつわるエピソードを紹介します。
まず赤ずきんといえば名前の通り赤い頭巾を被った女の子が浮かびますね。では、その女の子はどんな服を着ていますか?そして頭に被っているのは頭巾でしょうか?
マント型や短い頭巾型、頭巾ではなく赤い帽子、赤い頭巾に赤いマントでぬかりなくキメている子など様々なスタイルの赤ずきんがいます。頭巾の下の服装も、現代的な膝上のミニスカートから民族衣装までそれぞれ個性的なおしゃれをたしなんでいます。その中でミス赤ずきん(世界中で最も赤ずきんらしい赤ずきん)に選ばれたのは、1867年頃ロンドンで発行されたサラ・S.ベイカーの童話集「フレンドリーおばさんの贈り物」の中に登場した赤ずきんでした。
容姿は大体こんな感じ。
マント型のずきんにシンプルなエプロンドレス、バスケットには途中で摘んだ花とお見舞いの品が入っています。赤ずきんのお手本と称されるほど定番のアイテムをうまくまとめたスタイルです。
衣服だけでなく赤ずきんは持ち物もバリエーションが豊富で、定番のワインやチーズの他に女の子らしくお人形や傘、そしてやたら大きなおかしを持っている赤ずきん(※1)もいます。幼女に持たせるサイズか?
現在親しまれている「赤ずきん」はグリム兄弟が書き換えたハッピーエンドのもので、オリジナルである民間伝承を元にシャルル・ペローがまとめた話と結末が異なります。
以下、赤ずきんの元になった民話のあらすじ(ややグロ注意)
- おばあさんのお見舞いに行く途中オオカミに会う女の子
- 「どの道を行くのかい?縫い針の道かい?それとも留針の道かい?」と聞かれて「縫い針よ」と見ず知らずのオオカミにホイホイ個人情報を教える
- 先回りしたオオカミにおばあさんを殺されたことなど知らずに、縫い針を集めて道草をする
- 女の子がおばあさんの家に着くと、オオカミは殺したおばあさんの血と肉を料理としてふるまって食べさせる
- 食事を済ませるとオオカミが「服を脱いで横におなりよ」とベッドに誘う
- 服を一枚脱ぐ度に際どい会話が繰り返され、女の子はオオカミとベッドに入る
- 用が足したいから外へ行きたいと訴える女の子に対し、女の子の足と木に紐をくくりつけて裸のまま外へ出す
- 戻って来ない女の子の様子を見にオオカミが覗くと、ほどかれた紐しかなく逃げられていた
/児ポがこわいから女の子なんて出さん\
これは「品の良い若い娘は、通りすがりの者に耳を傾けてはいけません。そんなことをしたらオオカミに食べられても当たり前」という上流階級のお嬢さんたちのための教訓話でした。これに1697年にシャルル・ペローが途中のエロい部分と残酷な描写をいくらか抜いて「女の子は食べられてしまった」という結末に変えてまとめ赤いずきんというオリジナル要素を足しました。これが赤ずきんの誕生でした。そしてその話をさらに広く親しまれるようエロい描写を一切なくし「女の子は後から来た猟師に助けられる」というハッピーエンドに書き換えたのがグリム童話の赤ずきんです。
民話やペロー版では「誘惑する悪い男」だったオオカミは、グリム童話から「あらゆる危険なもの」のメタファーへ変わっていきます。
先述したように色々な赤ずきんがいて、容姿だけではなく行動もひとりひとり異なります。民話のように歩いて暗い森を進む子もいれば、赤いパーカーのフードを被り自転車で軽快に突っ走る子(※2)もいます。町中でバスに乗って移動する赤ずきん(※3)だっています。オオカミも姿を変え形を変え赤ずきんに迫ります。二足歩行で衣服をまとい帽子を被って紳士のように振る舞って赤ずきんを惑わすのです。森の中で会ったオオカミは人さらいかもしれない、自転車やバスに乗った赤ずきんが会うオオカミは飛び出して来た車かもしれない───かつて自力で危機から逃げられる若い娘だった赤ずきんは、オオカミの変化にともない幼くて非力な娘になっていきました。
しかし赤ずきんもか弱いままではありません。バスケットでオオカミの鼻に攻撃し、お母さんがフライパンでトドメを刺すという華麗な連係技を見せてくれる赤ずきんや(※4)、道着で蹴りを入れる赤ずきんも現れました。(※5)
オオカミのオシャレアイテムを利用した技の掛け方が素晴らしく、 挿絵から察するに現時点で茶帯らしい彼女は将来有望な選手ですね。また、見た目は完璧に幼女ながらもオオカミを横っ腹から噛み付いて食べた後さらにおばあさんも食べてしまう肉食女子の赤ずきんも現れました。(※6)猟師?なにそれ食えんの?
さらに猟師が空気になるのはアメリカの赤ずきん。
猟師ではなくお父さんがオオカミをやっつけてくれます。女児向け絵本にも関わらず窓からショットガンを構えて現れる姿はまるでハリウッド映画の主人公です。(※7)
さすがはJ……じゃなくて自衛の国や。
とはいえオオカミちょっとやられ過ぎだろ。
そんなオオカミの積年の思いから生まれたのか、怪我をしたオオカミを赤ずきんが介抱して手なずけるという話もあります。
1952年にマリー・コルモンが世に送り出した「marlaguette」は赤いスカートの少女とオオカミの交流を描いた話です。日本では「マルラゲットとオオカミ」というタイトルで出版されています。赤ずきんと真逆の内容ですが、トロースドルフ絵本美術館では赤ずきんの形のひとつとしてコレクションされています。
大人は一生懸命赤ずきんを守ります。オオカミから逃げ延びた赤ずきんは、いつか大人となり次の赤ずきんを守る側になるかもしれません。
王道からパロディも含めて多種多様な赤ずきんが世界中にいますが、彼女達は皆愛すべき存在でしょう。
※1…1930年頃パリ、ラルース書店「野生の動物たち」
※2…1978年ドイツ、トニー・ロス「赤ずきん」 1995年ニューヨーク、サイモン&シュスター・ブックス・フォー・ヤング・リーダーズ「赤ずきん」など
※3…1935年プラハ、ゲルトート・グランヴィル=ガイリンガー「赤ずきん」 ちなみに赤ずきんがかなり大人っぽい女性
※4…1992年ドイツ、ジョナサン・ラングレイ「赤ずきん」
※5…1995年プラハ、イジー・ジャーチェック「なーぜかなーまたは上級向けお笑い学校」
※6…1986年ノルウェー、エリーセ・ファーゲルリ 「オオカミみたいにおなかがすいた少女」
※7…1941年北アメリカ、ホイットマン・パブリッシング「赤ずきん」
参考文献:トロースドルフ絵本美術館展 「赤ずきん」と名作絵本の原画たち/朝日新聞社
おまけ トロースドルフ絵本美術館へのアクセス。
- とりあえずドイツのケルン空港へ行く
- ケルンからエスバーンという電車(ボン方面行き)に乗ってトロースドルフ駅で下車(駅まで20〜30分)
- トロースドルフ駅で降りてタクシーで「Museum Burg Wissem」と伝えれば5分から10分で到着(徒歩だと15分)
何これ全部描いたん?
返信削除紹介している絵本のほとんどが希少で画像検索などでもなかなか見られないため、参考文献を元に描き起こした絵を添えました。少しでも想像のお役に立てれば幸いです。
削除かにこちゃんかわいい
返信削除俺の股間の屋台囃子が玉入れから大波に突入しました
返信削除はぇ~、すっごいかわいい……
返信削除これ水着蟹子の人じゃね?
返信削除はい、水着の蟹子を描いた者です。こちらではよくお世話になっております。
削除面白い記事だった
返信削除絵描きさんもがんばりすぎだ
興味深いね
返信削除グリム童話のもとになった話とか知るの好きだわ
絵のクオリティ高すぎィ!
返信削除絵に力入れすぎィ!
返信削除イケメン蟹子(?)マジイケメン
良い記事だった
返信削除オオカミさんは昔からそういうことの暗喩だったのね
返信削除丁度卒業制作で物語を題材にした創作をやってて、とても面白かった
返信削除最終的に題材に選んだのは別の物語だけど赤頭巾でも考えたな
反映を約束する森の何かの下へ、閑散とした街から送り出された上等な赤い服を着た少女というお話だった
こういう形の記事もいいな
返信削除最近の蟹速は視野が広がって良い
イイネ・
返信削除この記事他の童話でシリーズ化して欲しいな
返信削除絵描くの大変だろうけど頑張れ
何故か米欄に淫夢厨がチラチラ見えるけど
返信削除いい記事だった
赤ずきんちゃんの画像(一番上)を現在作成中のRPG(無料配布予定)に登場させたいのですが、
返信削除使わせていただけないでしょうか?
作中のイメージにぴったりなので是非ご検討お願いいたします。
私は蟹速管理人ではなくただの一記者なので、そういった話はこちらで返答致しかねます。
削除恐れ入りますがそちらの所在(サイトやブログ等)を明記した上で、メールアドレスにてご連絡下さい。